この記事についてこのページは、海外を含む幹細胞研究の論文・臨床試験・報道を日本語で紹介する記事です。紹介する試験の結果は、その試験で用いられた細胞製品・投与方法・対象者に限られ、他の製品や当社がご案内する治療の効果を示すものではありません。当社は紹介する研究・製品に関与していません(関与がある場合は記事内に明記します)。このページでは治療のご案内は行っていません。
何が発表された?
膝の軟骨は、けがで一度傷つくと自然にはほとんど元に戻りません。gMSC1 は、健康なドナーの膝の関節を包む膜(滑膜)から採ったMSCを培養し、シート状の組織にした製品です。これを軟骨が欠けた部分に移植して、修復を助けることを目指しています。
ツーセルは2026年9月10日、この製品の第3相試験の治験計画届をPMDAに提出したと発表しました。第3相試験は、国の承認を得るために有効性を確かめる最終段階の試験です。PMDAによる14日間の調査を経て治験を始め、年内に患者の登録を始める予定としています。開発は、2025年6月にライセンス契約を結んだ科研製薬と進めています。
前回の第3相で分かったこと
同じ製品は、2017年から2021年にかけて、膝の外傷性軟骨損傷と離断性骨軟骨炎の患者70名を対象に第3相試験を行っています。比べた相手は、骨に小さな穴をあけて骨髄からの修復を促す標準治療(マイクロフラクチャー法)です。会社によれば、他家の細胞を使う軟骨再生の製品としては、国内で初めての第3相比較試験でした。
2023年3月の発表によると、MRIと関節鏡で軟骨の構造を評価する副次評価項目では「有効性が示唆された」とされ、新たな安全性上の所見もありませんでした。一方、主要評価項目とした2つの指標(軟骨の組織の状態と、患者自身が答える膝の症状)では、組織の指標は対照群より改善したものの統計的な有意差はなく、症状の指標は両群でほぼ同じでした。会社は、軟骨の構造の結果を「軟骨の再生や仮定したメカニズムを推察するデータとして有望」と位置づけ、5年までの観察を続けるとしています。
この結果を受けて、共同開発していた中外製薬とは2023年4月にライセンス契約を解消しました。両社は、解消は製品の可能性を否定するものではなく、安全性の問題によるものでもないと説明しています。ツーセルはその後も開発を続け、2025年6月に科研製薬と新たに契約し、今回の第3相試験につなげています。
日本で細胞の治療を届ける2つの道
日本で細胞を使う治療を患者に届ける方法は、大きく2つあります。1つは、医薬品と同じように治験で有効性と安全性を確かめ、国の承認を受ける道です。承認されれば、製品として広く使われ、保険の対象になる可能性もあります。gMSC1 はこちらの道を進んでいます。
もう1つは、再生医療等安全性確保法のもとで、医療機関が提供計画を国に提出して自由診療として提供する道です。この制度は安全性と手続きを確認するもので、有効性を審査するものではありません。ツーセルは2024年2月、同じ技術を患者本人の細胞で作る「gMSC1-A」について、この制度のもとで医療機関から受託製造するライセンス契約をコージンバイオ社と結んだと公表しています。他人の細胞を使う治療はこの制度で最も厳しい第一種に分類されるため、他家の gMSC1 は承認の道を選んでいると読むことができます。この制度の運用の実態は、脊髄損傷に対する提供計画41件の分析でも紹介しています。
まだ分からないこと
- 新しい試験の中身が公表されていません。 対象の患者、人数、比較の相手、主要評価項目は、今回の発表資料に書かれていません。前回と同じ設計なのかも分かりません。
- 前回の試験の詳しいデータを第三者が確かめられません。 結果は企業の発表で、査読付き論文は PubMed の検索では見つかりませんでした。副次評価項目の「示唆」がどの程度の差だったのかも公表されていません。
- 副次評価項目の結果は、主要評価項目の代わりになりません。 主要評価項目を達成しなかった試験で、副次評価項目だけに差が出た場合は、次の試験で確かめるべき仮説として扱うのが標準です。今回の第3相は、その確認にあたります。
- 膝の軟骨に移植する組織の製品です。 点滴で全身に投与するMSCや、他の病気を対象としたMSCの結果として読み替えることはできません。
研究情報
- 発表
- 株式会社ツーセル(広島市)、2026年9月10日
- 製品
- gMSC1。他家(ドナー)の滑膜由来MSCを無血清培地で培養し、足場材を使わずに作る三次元の組織。膝の軟骨の修復を目的に開発
- 今回の手続き
- 第3相試験の治験計画届をPMDAに提出。PMDAの14日調査を経て治験を開始し、年内に症例登録を始める予定(会社発表)
- 今回の試験の内容
- 対象、人数、比較対象、主要評価項目は、発表資料に記載がありません
- 前回の第3相試験
- 膝の外傷性軟骨損傷と離断性骨軟骨炎の患者 70名を、gMSC1 の移植と標準治療(マイクロフラクチャー法)に無作為に割り付けて比較。2017年5月に治験届、2017年11月〜2021年10月に手術。主要評価期間52週、全観察期間5年
- 前回の主要評価項目
- ①軟骨の組織学的評価(ICRS II Overall assessment score)②患者の自覚症状(KOOS Overall score)。①は対照群より改善したが統計的な有意差なし、②は両群ほぼ同じで有意差なし。主要評価項目は未達
- 前回の副次評価項目
- MRI(MOCART、MOCART 2.0)と関節鏡の目視による軟骨の構造の評価で「有効性が示唆された」と会社は発表
- 前回の安全性
- 新たな安全性上の所見は示されなかったと会社は発表。有害事象の内訳は発表資料に記載がありません
- 前回の登録番号
- JapicCTI-173603 ↗
- 開発の経緯
- 2016年 中外製薬とライセンス契約 → 2023年3月 第3相の主要評価項目未達を公表 → 2023年4月 契約解消・権利はツーセルへ返還 → 2025年6月 科研製薬とライセンス契約(国内の整形外科領域。契約一時金・開発費・マイルストーンで最大約70億円)→ 2026年9月 新たな第3相の治験計画届
- 資金・利益相反
- この記事の情報源は開発企業と提携企業の発表です。研究開発には JST、NEDO、経済産業省、AMED の支援を受けたと会社は記載しています
- 注意
- 前回の第3相試験の結果は企業の発表で、査読付き論文としての公表は、当編集部が PubMed で検索した範囲では見つかりませんでした(2026年10月1日時点)
結果の範囲
この結果が示していること
- 他家の滑膜由来MSCから作る gMSC1 の第3相試験の治験計画届がPMDAに提出され、年内に登録開始が予定されていること
- 同じ製品の前回の第3相試験(70名、標準治療との比較)は、2つの主要評価項目のどちらも統計的な差を示せなかったと会社が公表していること
- 日本では、細胞の治療が承認を目指す治験と、再生医療等安全性確保法による自由診療という別々の道で扱われていること
この結果が示していないこと
- gMSC1 で膝の軟骨が修復されること(有効性の確認は、これから始まる第3相試験で行われます)
- 新しい第3相試験の結果(これから始まる試験です)
- 点滴で投与するMSCや、他の製品・他の病気を対象としたMSCに当てはまること
出典- 株式会社ツーセル. 株式会社ツーセルによる同種(他家)滑膜間葉系幹細胞由来三次元人工組織「gMSC®1」の第3相試験に係る治験計画届書の提出について. 2026年9月10日 ツーセル(PDF) ↗
- 株式会社ツーセル. 同種(他家)MSCを利用した三次元人工組織の膝軟骨再生細胞治療製品(開発番号「gMSC®1」)の第III相比較臨床試験の結果について. 2023年3月9日 ツーセル(PDF) ↗
- 中外製薬、ツーセル. 中外製薬とツーセルによる膝軟骨再生細胞治療製品「gMSC®1」に関するライセンス契約の解消について. 2023年4月13日 中外製薬 ↗
- 株式会社ツーセル. 株式会社ツーセルと科研製薬株式会社による同種(他家)滑膜間葉系幹細胞由来三次元人工組織「gMSC®1」に関するライセンス契約の締結について. 2025年6月2日 ツーセル ↗
- コージンバイオ株式会社. コージンバイオとツーセルによる再生医療の安全性確保法下における関節軟骨再生細胞治療製品「gMSC®1-A」に関するライセンス契約の締結について. 2024年2月14日 コージンバイオ ↗
- 前回の第3相試験の登録情報 JapicCTI-173603(臨床研究情報ポータルサイト) ↗
- 製品の製造法に関する論文(前臨床): Maeda T, et al. Development of scaffold-free tissue-engineered constructs derived from mesenchymal stem cells with serum-free media for cartilage repair and long-term preservation. Cytotechnology. 2024. PubMed 39188648 ↗
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